「91歳 現役」鹿児島の老舗たこ焼き店「たこ焼き本町」 昭和の味を守り続ける理由
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鹿児島県鹿屋市に、昭和の空気をそのまま閉じ込めたようなたこ焼き店がある。店名は「たこ焼き本町」。毎朝9時半ごろから窓際に立ち、黙々とたこ焼きを焼き続けるのは、昭和10年生まれ、91歳の店主・木佐貫シズエさんだ。60年以上変わらない素朴な味と、その背後に積み重なった人生の物語が、今日も地域の人々を引き寄せている。店の正面には大きなタコのイラストが描かれ、一目でたこ焼き屋とわかる外観が目を引く。店内には鹿屋市出身の芸能人のサインも飾られており、地域に根づいた老舗ならではの趣がある。昭和で時が止まったかのような空間の中で、シズエさんは今日も慣れた手つきでたこ焼きを焼いている。
インタビュー中に注文の電話が鳴ると、スッと立ち上がり小走りで電話へ駆け寄る。その軽やかなフットワークは、とても91歳とは思えない。長時間の立ち仕事もまったく苦にしないというシズエさんは、こう話す。
「つらいってことはないよ。楽しい仕事だから」
シズエさんのたこ焼きは、外はパリッと、中はトロッとした食感が特徴だ。甘めのソースと青のりが絡み合い、創業当初から変わらない素朴な味わいが口いっぱいに広がる。
価格は15個500円。
ただし、この価格だけは「昭和のまま」とはいかなかった。
「たこ焼きは1ケースで100円だったの、最初は。15個で100円だよ。その頃のメリケン粉は68円か98円かだった。今は300円からだよ」
材料費の高騰を正直な言葉で語るシズエさんの口ぶりには、長年商売を続けてきた人ならではの実感がにじんでいる。
シズエさんが店を始めたのは、今から60年以上前、まだ20代のころだった。当時、夫の長光さんは理容店を営んでいた。そこへ父の友人が「たこ焼き屋をさせてごらん」と声をかけたのが、すべての始まりだという。
「散髪屋を壁で仕切って、そっちが私で、お父さんがこっちで。たこ焼きが一人で大変だったから『もうこっちをしてよ、閉めるが』って言った。『じゃらいね』って言って散髪屋をすぐ閉めてくれた」
こうして夫婦二人でたこ焼き一本に絞り、長い年月をともに歩んできた。シズエさんが「お父さん」と呼ぶ長光さんは、「人見知りするような人。しゃべらないでニコニコ笑うだけ」という穏やかな人物だったという。その長光さんが2025年5月に亡くなった。
長光さんが亡くなっても、シズエさんに店を辞めるという選択肢はなかった。その理由はシンプルだ。
「お客さんがしゃべってくれるだけでもうれしい。それだけで楽しい」
店を訪れた客も、シズエさんの姿に刺激を受けている。「年齢を聞いてびっくりしました。見習わなきゃと思いますよね」と話す客もおり、たこ焼きの味だけでなく、シズエさんそのものが「たこ焼き本町」の魅力となっている。
店には後継者もおり、午後5時からは息子さんが「夜の部」として営業を引き継いでいる。大きなタコの絵の下で、シズエさんは今日もたこ焼きを焼いている。