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観光・グルメ 読売新聞オンライン

魚介類の陸上養殖が活発、届け出トップ3は沖縄・大分・鹿児島…「食料安全保障上重要」と指摘される理由

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 陸地に設置した水槽などで魚介類を生産する「陸上養殖」が九州・沖縄・山口で活発になっている。事業者の届け出の最新データ(今年1月時点、年1回公表)では、上位10位に、沖縄、大分、鹿児島県など7県がランクインしている。届け出制度開始から今月で3年になる中、水産庁は、温暖な気候や、海上養殖の技術を生かせていることなどが背景にあるとみている。有識者は「安定的な出荷ができる陸上養殖は食料安全保障上、重要だ」と指摘している。(今泉遼)

 沖縄県金武(きん)町で、陸上養殖に取り組む「琉球キッカワ.G」の建物内では今年冬、水温が27度ほどに設定された水槽の中をバナメイエビが悠々と泳いでいた。

 事業責任者の塩田純さん(55)が網で数匹すくって生育状況を確かめると、ピチピチと跳ね回り、生きの良さが見て取れた。塩田さんは「甘みが強く、食感はプリプリとしている。刺し身でもおいしく食べられます」と笑った。

 石油化学プラントの保全工事を行う「キッカワ」(岡山県倉敷市)のグループ会社にいた塩田さんは2019年頃、知人のエビ養殖場を見学したのをきっかけに関心を持った。倉敷で試験的にエビの陸上養殖をした後、責任者として沖縄に移り、24年から金武町で本格的に事業を始めた。

 建物内には大小約15の水槽があり、成長度合いによって分けて入れる。毎月1万~3万匹を沖縄県内や東京のホテル、飲食店などに出荷する。稚エビの仕入れ先は国内とタイが半々程度だ。

 塩田さんは「大きさが違うエビを同じ水槽に入れると共食いが起きるなど課題もまだある」としつつ、「年間を通して温暖な沖縄では温かい海水が手に入るし、屋内の養殖場なので台風や大雨の影響は受けない。もっと速く成長させて回転率を上げれば、より採算も合い、ビジネス的に成功に近づくはずだ」と語る。

 水産庁によると、届け出制度は23年4月にスタート。海上養殖と違い、漁業権が必要ない陸上養殖は、それまで法律に定めがなく、把握する方法がなかった。排水などで周辺環境に与える影響もあるため、内水面漁業振興法の政令を改正し、陸上養殖の実態を把握することにした。

 24年1月時点での事業者の届け出件数は662件、25年1月時点は740件と増加が続く。今年1月時点では808件で、沖縄(195件)、大分(53件)、鹿児島(36件)各県の順に多く、熊本(31件)、長崎(30件)も上位だ。種別ではクビレズタ(海ブドウ)、ヒラメ、クルマエビ、バナメイエビ、トラフグ、サケ・マス類などが多い。

 水産庁の担当者は「元々、養殖業が盛んな地域では技術が確立されており、事業を続けられているのだろう」と話す。

 近年は電力会社やテレビ局など異業種の参入も相次いでいる。

 養殖ヒラメの生産量が全国トップの大分県の下入津(しもにゅうづ)陸上養殖組合(佐伯市)は30年以上前に発足。今では、特産のカボスを混ぜたエサを与えた「かぼすヒラメ」などをブランド化し、売り出している。

 「陸上養殖が注目されるのは良いが、最近は資金力のある大企業の参入が多く、競争が激しくなっている。長年にわたり受け継いできたノウハウで、負けないように魅力をPRしないといけない」。河内(かわち)伸浩・前組合長(50)はこう話している。

 九州大の松山倫也(みちや)名誉教授(水産増殖学)によると、海上養殖と比べて陸上養殖には、飼育設備などの初期費用や電気代の負担の重さ、閉鎖的な環境下での衛生管理ができる専門的な人材の確保といった課題がある。一方、メリットとしては、安定した出荷やトレーサビリティー(履歴管理)の透明性といった点を挙げる。

 そのうえで、「牛や豚などの畜産は飼料の穀物などに大きく依存しており、いずれ『たんぱく質危機』が起きるとも言われている。魚は畜産より少ない飼料で成長させることができるため、陸上養殖は食料安保と健康な食生活を担保するうえで重要な産業だ」と指摘している。