最低賃金64円増で「年収の壁」が新たな懸念 鹿児島1090円に決定、人手不足の企業に影響か
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「労使ともに最低賃金を上げることには異論はない」――そう語るのは、鹿児島地方最低賃金審議会の川口俊一会長だ。8月26日、県内の最低賃金を現行の1026円から64円引き上げ、1090円とする答申が鹿児島労働局に提出された。この引き上げ幅は過去2番目の大きさであり、10月25日からの適用が決まっている。賃金上昇が地域経済にどのような影響をもたらすのか、専門家の見解も交えながら見ていく。8月26日午前、県内の最低賃金の引き上げ額を話し合う専門部会が開かれた。労働者側は74円、使用者側は58円をそれぞれ提示し、16円の開きがあった。非公開での協議でも両者の溝は埋まらず、最終的に中立的な立場である公益委員が64円の引き上げを提示。採決の結果、公益委員と労働者側の計5人が賛成、使用者側3人が反対という賛成多数で、引き上げ額は64円と結論づけられた。
労働者代表委員の白石裕治氏は「この金額であれば鹿児島の最低賃金で働く人たちの手助けになるのではないか」と述べた。一方、使用者代表委員の浜上剛一郎氏は「率直に言って非常に厳しい数字。引き上げができる環境整備とともに社会全体で賃上げができるような社会になれば」と複雑な思いを口にした。
県内の最低賃金の推移を振り返ると、10年前は737円だった。それが年々引き上げられ、2025年には初めて1000円の大台を突破。引き上げ幅に注目すると、2024年は56円、2025年は73円、そして2026年は64円と、ここ数年で引き上げのペースが明らかに大きくなっている。
川口会長は「労使の予見可能性が可能な上げ幅を鹿児島の場合は重視した」と今回の判断の背景を説明した。数字そのものよりも、企業や労働者が先を見通せる範囲での引き上げを意識した結果が、64円という数字に表れているといえる。
この引き上げが地域経済にどう影響するのか。九州経済研究所経済調査部の福留一郎部長は、まず好影響への期待を示す。「経済全体でいくと賃金が増えると消費も増えて、企業の売り上げも上がって、それが賃金に反映されて好循環を期待される部分もある」と話す。
ただし、福留部長はすぐに懸念点にも言及する。「年収の壁というのが一つある。最低賃金が上がることによって年収の壁を越えてしまう。どう調整するかというと、労働時間を減らそうという動きが出てくる。ただでさえ人手不足で企業は困っているので、そういうことが起こってしまうと本末転倒になってしまう」。
最低賃金の引き上げによって、パートやアルバイトで働く人々が一定の年収水準を超えないよう労働時間を自ら削る、いわゆる「年収の壁」問題が顕在化する可能性がある。人手不足が慢性化している鹿児島県内の企業にとって、これは看過できないリスクだ。
今回の64円という引き上げ幅について、福留部長は「間違いなく物価高」を背景に置きつつも「去年ほど引き上げ額としては大きくない。だが、金額、引き上げ額自体は大幅な上昇。企業にとっては、相当な負担。『そこはちゃんと覚悟していきます』という表れ」と評価する。
その上で、労働者側の視点からは「それでも十分かというと、まだ引き上げ額が足りない」という現実も指摘する。物価上昇が家計を直撃している中で、64円の引き上げがどこまで生活を支えられるかは、働く人それぞれの事情によって異なるだろう。
福留部長が最後に強調するのは、個々の企業努力の限界だ。「一企業の問題ではなく、全体的に賃上げが持続的にできる環境を整備する。そこが一番必要かと思う」。賃金を上げたくても上げられない中小企業が多い鹿児島において、社会全体で賃上げを支える仕組みづくりが求められている。
新たな最低賃金1090円は、10月25日から鹿児島県内で適用される。過去2番目の引き上げ幅が、地域で働く人々の暮らしと企業経営の両方にとってプラスの変化につながるかどうかは、賃上げを支える環境整備が今後どこまで進むかにかかっているといえる。