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奄美群島に「幻の航空会社」が存在した? 2013年に生まれた低運賃の熱気、1500人が関わった計画はなぜ空へ届かなかったのか
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奄美群島に「幻の航空会社」が存在した? 2013年に生まれた低運賃の熱気、1500人が関わった計画はなぜ空へ届かなかったのか

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 鹿児島県南部、沖縄と九州の間に位置する奄美群島――。

 アマミノクロウサギに代表される固有の生き物が生息し、珊瑚礁が広がる海やマングローブ林など、豊かな自然環境を持つ島々として知られている。

 大島紬や黒糖焼酎、鶏飯といった奄美特有の文化も根付いており、観光地としても多くの人を引きつけてきた。

 こうした奄美群島を拠点にしようとする航空会社の計画がかつて存在したことは、あまり知られていない。

 本稿では、地域の期待を背負いながらも資金面の壁を越えられず、実現に至らなかった「エア奄美」について解説する。

 鹿児島県南部、沖縄と九州の間に位置する奄美群島――。

 アマミノクロウサギに代表される固有の生き物が生息し、珊瑚礁が広がる海やマングローブ林など、豊かな自然環境を持つ島々として知られている。

 大島紬や黒糖焼酎、鶏飯といった奄美特有の文化も根付いており、観光地としても多くの人を引きつけてきた。

 こうした奄美群島を拠点にしようとする航空会社の計画がかつて存在したことは、あまり知られていない。

 本稿では、地域の期待を背負いながらも資金面の壁を越えられず、実現に至らなかった「エア奄美」について解説する。

 エア奄美は2016(平成28)年5月20日に設立され、徳之島の天城町に拠点を置く航空会社であった。

 同社は奄美群島を基盤とし、ATRやボンバルディアなどの双発ターボプロップ機を導入する計画だった。運航網としては、群島内の奄美大島、徳之島、沖永良部島を結ぶほか、鹿児島、沖縄、関西方面への路線も想定していた。

 拠点空港は鹿児島空港、奄美空港、徳之島空港の三つを中心に置く構想であった。

 また同社は、地域間輸送を担う航空会社にとどまらず、

「地方創生型格安航空会社(LCC)」

として、大手よりも低い運賃での運航を目指していた点に特徴がある。就航に際しては旅客輸送だけでなく、地域の特産品の輸送や販売にも取り組む方針を示しており、貨物事業にも関心を持っていた。

 さらに航空事業に加え、「機内での朝どれマルシェ」として特産品を販売する小売事業や、空き家を使った民泊の案内、奄美の日常体験や世界自然遺産の巡り、体験型の一日航空教室など、奄美群島の地域活性化につながる取り組みも計画されていた。

 エア奄美構想が動き出した2010年代は、奄美群島へのLCCの関心が高まり始めた時期でもあった。

 もともと奄美大島にはJALグループの便が羽田、伊丹、福岡、鹿児島などから就航していたが、運賃は高めで、初めて訪れる旅行者にとっては利用の負担が大きい路線だった。

 そうしたなか、2013(平成25)年12月にANA系LCCのバニラエアが成田~奄美大島線を開設した。

 それまで高額だった航空運賃が、片道1万円台で利用できる水準となったことで注目を集めた。

 この路線は急速に利用者を増やし、関西国際空港線(2017年就航)も含めて、5年間で約75万人の利用実績となった。

 これにより奄美大島にもたらされた経済効果は年間42億円にのぼり、「バニラエア効果」と呼ばれるようになった。

 その後、バニラエアはピーチと経営統合されたが、奄美大島への路線はピーチに引き継がれている。

 このこともあり、地元ではLCCへの期待が強まっていた。

 拠点のひとつとされた徳之島では、2016年10月に地元の観光連盟がエア奄美への支援を表明した。支援のための社団法人まで設けられるなど、就航に向けた動きは積極的に進められていた。

 さらに設立翌年の2017年には、客室乗務員や地上職の経験者の募集も始まり、2019年春の就航を目標に準備が進められていた。

 しかし現実は厳しかった――。

 大手物流会社を親会社に持つフジドリームエアラインズのような体制とは異なり、強い支えを持たないエア奄美は、資金面で苦しい運営を強いられた。

 加えて資金集めもうまく進まず、会社の継続そのものが難しい状況に追い込まれていった。

 2018年1月26日、航空専門メディアのアビエーションワイヤーは、エア奄美が2018年2月末で解散する見通しと報じた。

 その報道通り、同社は2月末に解散した。奄美を拠点とした「地方を元気にするLCC」の構想は実現せず、計画のまま終わった。

 資金不足により断念したエア奄美だが、同社が取り組もうとしていた課題は、今も奄美群島における重要な問題として残っている。

 とりわけ航空運賃への不満は根強い。

 ピーチの就航によって一時よりは低下したものの、羽田路線などでは沖縄路線より高くなることが多い。

 沖縄では航空燃料税の軽減措置があり、航空会社の負担が抑えられているうえ、那覇線や宮古線、石垣線にはB767やB787、B777といった座席数の多い機材を投入できる。

 しかし奄美群島の空港にはB767クラス以上の機材は乗り入れできず、A320やB737といった小型機やリージョナル機、ATRなどのプロペラ機に限られる。

 そのため座席数を増やしてコストを下げることが難しく、結果として1席あたりの運賃は下がりにくい。東京や大阪から見ると距離は沖縄より近いにもかかわらず、運賃は沖縄路線より高くなることがある。

 こうした事情から、奄美群島では航空運賃の引き下げやLCCへの期待は今も強い。

 一例として、エア奄美が破綻した翌年の2019年度には、徳之島利用促進協議会が関東や関西からの直行便の就航やLCC誘致を事業計画に盛り込んでいる。

 破綻後も自治体の施策としてLCC誘致が掲げられていることから、エア奄美が実際に就航していれば状況は変わっていたのではないか、という見方も残る。

 奄美群島の観光や交通の面で課題となっているのが、群島内の移動、いわゆるアイランドホッピングの充実である。

 奄美群島振興開発に関するアンケート結果をみると、島の振興に向けた有効な交流・連携先として「群島全体」と答えた人が最も多く、住民のおよそ5割を占めている。群島内での人の行き来や交流を増やしたいという意識は強い。

 また、地理的に近く、文化や歴史の面でも結びつきが深い沖縄県との連携も求められている。

 鹿児島県は沖縄県と2015(平成27)年から、奄美群島振興交付金を活用した航空運賃の軽減や共同での観光宣伝などを進めており、観光客数の多い沖縄から奄美への誘導を図っている。

 しかし現状では、奄美群島内の移動や沖縄への移動手段は十分とはいいがたい。

 航空便は日本エアコミューターが運航する路線に限られ、奄美~徳之島、徳之島~沖永良部~那覇、奄美~与論~那覇といった区間で1日1便程度の運航にとどまっている。

 船便も利用できるが、物流を優先したダイヤ編成となっているため、観光目的では使いにくい時間帯になることもある。

 筆者(前林広樹、航空ライター)も2023年夏に1週間の休みを取り、奄美を訪れたことがある。その際は奄美大島から入り、徳之島や沖永良部島などを巡るアイランドホッピングを計画していた。

 しかし、奄美大島の名瀬港ではフェリーの出発時刻が早朝に限られていたり、飛行機で経路