開業初年度は1億円赤字 奄美のホテルが“癒し路線”で再生したワケ
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「健康」や「癒し」を目的に旅をする人が増えている。米シンクタンク「グローバル・ウェルネス・インスティテュート」の報告書によると、2023年の世界のウェルネス市場規模は6.3兆ドル(約989兆円)で、そのうちウェルネスツーリズムは8302億ドル(約130兆円)だった。あれこれ観光地を巡るのではなく、自然散策や運動、瞑想、温泉、健康的な食事などを通じて、心身をリフレッシュさせる旅行を指す。「リトリート」とも呼ばれ、こうしたコンセプトを打ち出すホテルや地域も増えてきた。
このウェルネスツーリズムに振り切ったことで、赤字から一転、黒字化に成功した高級リゾートホテルがある。世界自然遺産に登録された奄美大島の最南端にある「THE SCENE(ザ・シーン)」だ。2015年の開業初年度は1億円の赤字だったが、2年目に「ウェルネスホテル」に方向転換したことで黒字化、2024年には過去最高売上を更新した。
同ホテルを運営するのは、ストレッチ専門店「Dr.stretch(ドクターストレッチ)」をはじめ、健康・スポーツ事業を展開するnobitel(ノビテル、東京都新宿区)だ。同社のホテルトラベル事業部執行役員、兼ザ・シーン支配人の小林良輔氏に、「ウェルネス特化ホテル」の戦略と成果を聞いた。
「健康」や「癒し」を目的に旅をする人が増えている。米シンクタンク「グローバル・ウェルネス・インスティテュート」の報告書によると、2023年の世界のウェルネス市場規模は6.3兆ドル(約989兆円)で、そのうちウェルネスツーリズムは8302億ドル(約130兆円)だった。
あれこれ観光地を巡るのではなく、自然散策や運動、瞑想、温泉、健康的な食事などを通じて、心身をリフレッシュさせる旅行を指す。「リトリート」とも呼ばれ、こうしたコンセプトを打ち出すホテルや地域も増えてきた。
このウェルネスツーリズムに振り切ったことで、赤字から一転、黒字化に成功した高級リゾートホテルがある。世界自然遺産に登録された奄美大島の最南端にある「THE SCENE(ザ・シーン)」だ。2015年の開業初年度は1億円の赤字だったが、2年目に「ウェルネスホテル」に方向転換したことで黒字化、2024年には過去最高売上を更新した。
同ホテルを運営するのは、ストレッチ専門店「Dr.stretch(ドクターストレッチ)」をはじめ、健康・スポーツ事業を展開するnobitel(ノビテル、東京都新宿区)だ。同社のホテルトラベル事業部執行役員、兼ザ・シーン支配人の小林良輔氏に、「ウェルネス特化ホテル」の戦略と成果を聞いた。
ザ・シーンは「本物のプライベート」をコンセプトに、2015年に誕生した。奄美空港からクルマで約2時間、島の最南端にあり、目の前にはプライベートビーチが広がる。キレイな星空が見られるほか、神秘的な雰囲気が漂う離島・加計呂麻島へのアクセスもいい。
羽田空港から直行便で約2.5時間と、沖縄や海外のアジアリゾートよりも都心から近く、秘境を求める人に適した場であるとして、40~60代の経営者層やシニア夫婦をターゲットに、高級リゾートとして開業した。
「当ホテルは全21室と小規模で、周辺は人が少なく穏やかです。奄美大島自体も大規模な観光開発がされていません。そうした穴場的な場所を探している人をペルソナにしたのですが、うまくいきませんでした」
実際、ターゲット層の集客には成功したものの、評判にはつながらなかった。もともと1989年に建てられた古いホテルであり、改装はしたものの、部屋は30~46平米と狭い。同社の主軸事業は健康・スポーツ分野で、観光は未経験。ホテル運営のノウハウ不足もあり、接客レベルが十分ではなく、食事も気に入ってもらえなかった。他社の高級リゾートと比べて見劣りすると評価され、口コミ評価も低かった。
「結局、1年目で想定以上となる1億円の赤字を出してしまいました。これではマズいと試行錯誤していた最中のこと、ヨガのアクティビティーに参加したお客さまが、涙を流していたんです。『スタッフが何かやらかしてしまったのか?』と思い、お声がけしたところ、『命の洗濯ができました』と返ってきました。加計呂麻島を眺めながらヨガをしていたら、自然と涙がこぼれたそうです」
この出来事を機に、小林氏は方針転換を決めた。開業2年目に打ち出した新コンセプトは、ネイチャー(自然)とクレンズ(浄化)を掛け合わせた「ネイチャークレンズ」だった。
「当社は、国内外に約300店舗ある『ドクターストレッチ』の運営をはじめ、健康産業を主軸にしています。そうした企業がリゾートホテルを手掛けるのは、ちょっとおかしい。加えて、この場所には人を浄化するようなチカラがある。それならば、思い切って“ウェルネスホテル”として打ち出そうと考えました」
当時は「ウェルネスツーリズム」という言葉が浸透しておらず、「リトリート施設」としてアプローチ。「非日常の空間で心身をリフレッシュし、腸内環境など体の内側を整えるための旅」と打ち出し、ターゲットも都心でバリバリ働く20代後半~60代の女性に変更。宿泊料金の値上げも実施し、1泊当たりの客単価を1万4000円引き上げた(食事込み)。すると、メディア取材が急増した。
「口コミ評価が下がる中、メディアでたくさん取り上げていただき、WebサイトのPVが上がっていきました。広告費を削減したのにもかかわらず、PVは伸び、健康意識の高い男女ペアのお客さまが、次々と訪れるようになったのです」
リトリート施設というアプローチがターゲットの女性に届き、彼女たちがパートナーを連れて訪れるようになったという。
コンセプトの変更に伴い、サービス面も一部変更した。最も分かりやすく変えたのは「接客スタイル」だった。
「以前は高級リゾートらしく、きっちりした接客をしていたのですが、フレンドリーな接客スタイルにしました。ヨガやピラティスのスタジオで受けるような。そうしたら、以前は多かったクレームがゼロになりました。きっちりした接客だと完璧さを求められますが、フレンドリーに変えたら『人間らしさがあって、1人1人が考えながら働いていていいね』と評価をいただけたのです」
料理やアクティビティーは、何も変えていない。だが、「伝え方」を変えたことで満足度が上がっていったという。
「料理は『おいしい』ではなく、『体にやさしい』という表現にしました。料理は全体的に薄味で、以前は低評価だったのですが、『体にやさしい薄味にしています』と伝えると納得していただける。アクティビティーも『豪華クルージング』と訴求していたものを、『自然を通じてクレンズするウェルネス体験』としました」
こうした取り組みにより、顧客の反応が徐々に変化。「非日常の体験だね」「こういうのをリトリートって言うんだね」と、前向きなコメントをもらえるようになった。結果として、2年目には減価償却費約5000万円を除いたEBITDAベースで黒字化を達成。つまり、5000万円のマイナスをプラスに逆転したわけだ。
その後、コロナ禍の2021年11月に開始した「快眠体質プラン」も