「日本一早い収穫」鹿児島産オリーブオイルが国産市場に挑む…120年越しの悲願と生産者の思い
📰 全文
国内で消費されるオリーブオイルのほとんどは海外産だ。しかし鹿児島県日置市では、地元産のオリーブを使ったオリーブオイルの生産が着実に進んでいる。その歴史は120年前にまで遡り、台風と長雨という鹿児島ならではの自然条件との格闘が続く。「パイオニアにならないといけない」そう語る生産者の試行錯誤が、唯一無二の味を生み出している。鹿児島市街地から車で約40分。日置市東市来町にある「鹿児島オリーブ」の店内では、県産オリーブを使ったオリーブオイルが販売されている。取材した記者は「塩味と少しの甘みと、果物のようなフルーティーな味わい」と表現した。
そのオリーブオイルの原料となるオリーブは、鹿児島オリーブが運営する「日置オリーブファーム」で栽培されている。約2ヘクタールの敷地に、およそ550本のオリーブの木が植えられている農園だ。
代表の水流一水さんが農園を案内してくれた。取材時はちょうど収穫の真っ最中で、農園は活気に満ちていた。
鹿児島オリーブの特徴のひとつは、紫色に熟す前の若い緑の実を摘み取ることだ。収穫はすべて手摘みで行い、落ちてしまった実は一切使わない。
「衝撃で近くの実が落ちやすいので、落としてしまうと使えなくなる」と水流さんは言う。
農園の中でひときわ目を引くのが、スペイン原産の「アルベキーナ」という品種の木だ。1本で50キロもの実を収穫できる木もあるといい、水流さんは「実がたくさん付きます。すごくフルーティーな香りが特徴」と説明する。実がびっしりと付く状態を、農園では「ベタなり」と呼ぶ。2026年は雨の影響も少なく、出来は上々だという。
収穫した実はその後、傷んでいるものを取り除く「選果」を経て「搾油」へと進む。鮮度を保つため、収穫から24時間以内に搾油を行い、熱による酸化を防ぐため室内の空調は18℃に設定している。搾油率はわずか5%。1キロの実からわずか50グラムしかオイルが取れない計算だ。こうして黄金色に透き通ったフレッシュなオリーブオイルが完成する。
そもそも、なぜ鹿児島でオリーブの栽培が始まったのか。その歴史は今から約120年前、日露戦争後の明治40年に遡る。
日本は北方の海域に広大な漁場を手にし、多くの魚を獲ることが可能になった。その魚を保存する手段として、当時の政府が目をつけたのが「オリーブオイル漬けの缶詰」という保存方法だった。政府は気象条件や魚の水揚げ量などを考慮し、香川・三重・鹿児島の三県をオリーブの栽培試験地に指定した。
しかし実際に栽培が成功したのは、香川県の小豆島だけだった。収穫前に台風や長雨の影響を受けやすい鹿児島では、オリーブの栽培は難しかったのだ。
120年の時を経て、オリーブが鹿児島で再び脚光を浴びるのは2013年のことだ。大手企業の工場撤退などで働き手の減少に頭を抱えた日置市は、鹿児島銀行と協定を結び、県内に競合農家のいない新たな産業を生み出そうとオリーブの生産を始めた。
日照時間や温暖な気候という条件は鹿児島もクリアしている。問題はやはり台風と長雨だ。水流さんの試行錯誤は今も続く。
「鹿児島は水が豊富な分、雨も多く、春の長雨の時期に受粉で実を作るための準備の花粉が全部飛んでしまう。なので、それに対してもう少し花を早く咲かせる栽培手法を取り入れたり、私たちが独自でここで育てるなら『こうするべき』というのを作っていかないといけない。パイオニアにならないといけないということが分かってきたので、そこの難しさはある」
こうした取り組みの結果、国内シェア8割以上を占める香川県より1カ月早い9月中旬に収穫が始まる。「日本一早い収穫」を誇るゆえんだ。
逆説的なことに、鹿児島の気候がオリーブに独特の風味をもたらしていることも分かってきた。
「雨が多い鹿児島ではオリーブに入っている辛みやえぐみ成分が流れて、甘い香りだけが残りやすいという特徴も分かってきた」と水流さんは話す。
9月に開かれた収穫祭では、できたばかりの県産オリーブオイルが地域の人々に振る舞われた。参加者からは「オイルではなく果物を飲んでいるような感じ」という声が上がり、「これからも頑張って飲もうと思う」と続けた。
水流さんは「鹿児島ならではの味を多くの方に知ってもらいたい」と語る。挑戦と失敗を繰り返しながら育まれてきた県産オリーブ。鹿児島の風土が生み出す唯一無二のオリーブオイルは、日置と世界をつなぐ架け橋となりつつある。
コメント 0件
まだコメントはありません。最初のコメントを書いてみませんか?