「育児上手だね」の一言が救った命 望まない妊娠・産後うつを抱えた母子の居場所、鹿児島「ミモザ」の1年
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望まない妊娠、貧困、家族からの孤立——そんな困難を抱えた妊産婦が頼れる場所が、鹿児島市の賃貸住宅の一室にある。施設の名は「ミモザ」。2025年5月に開所し、1年あまりが経過した今、母子の自立を支える確かな手応えと、支援の限界という現実が同時に見えてきた。ミモザを運営するのは助産師の安藤美智子さんだ。5年前に立ち上げた電話相談窓口「にんしんSOSかごしま」の活動を通じ、相談者を適切な支援先へつなごうとしても「つなぎ先がない」という壁に何度もぶつかってきた。その経験がミモザ開所の原点となっている。
施設は15歳以上の母親と赤ちゃんが対象で、1日あたり1000円、約5カ月間利用できる。開所以来4件の利用実績があり、自治体だけではカバーしきれない母子の受け皿として機能し始めている。
関西出身のある女性は、10代で妊娠し、夫の実家がある鹿児島へ移住した。しかし夫の実家も貧困世帯で関係は悪化し、実の家族とも絶縁状態。産後うつの症状が現れる中、病院でミモザの存在を知った。
約5カ月間、安藤さんと過ごした日々を女性はこう振り返る。「安心感がすごかった」。特にうれしかった言葉は「育児上手だね」というひと言だったという。「普段子どものことで不安があると聞いてすぐに教えてくれて勉強になる」と話し、安藤さんのことを「何でも言えます」と表現した。
2026年5月にミモザを巣立ったこの女性は、子どもの誕生日に向けてケーキ作りを安藤さんに習いに来ていた。「子どものためならがんばります」——その言葉には、ミモザで培った自立への土台が感じられた。
手応えの一方で、安藤さんが課題として挙げるのが受け入れ部屋の不足だ。現在、居室は一部屋のみ。入居希望のタイミングが重なり、受け入れられなかった母子もいた。
現在の運営費は年間約500万円で、そのうち8割を東京の財団からの助成金でまかなっている。部屋数を増やすには日用品費やスタッフの人件費など、さらなる費用が必要となる。
安藤さんが解決策として求めているのが、令和6年4月1日に施行された改正児童福祉法により創設された「妊産婦等生活援助事業」の鹿児島県での実施 。生活に困難を抱える妊産婦を支援する事業所に、県が実施する場合には 最大3025万円を基本とする公的な財政支援を支払う仕組みで、まさにミモザの活動と合致する。
7月に鹿児島市で開かれた研修会には九州各県の支援団体が集まり、意見を交わした。すでに事業を導入した佐賀県の団体「ましゅまろネット」では、委託金をスタッフの人件費や入居者の生活費、に充て、最大2部屋を同時に運営している。
しかし研修会の講師・大神嘉さんは導入の難しさも指摘する。「国から2分の1は出るが、残りの2分の1を捻出していくのが都道府県にとって大きなハードル」。2025年4月1日時点で全国30の自治体が事業を導入しているが、鹿児島県は現在も「検討中」の段階だ。
安藤さんはこう語る。「ここで大切にされて、安心して産前産後を過ごすということは、困難な状況でも子供を育てていこうとする土台になると思っている」。誰もが安心して産み育てられる地域をつくるために、思いだけでは限界があるという現実と向き合いながら、ミモザは今日も扉を開けている。