桜島の火山灰でアート「鹿児島県民の当たり前を紹介」…大さじ1杯で一つの作品、目標は世界に広がる
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火山灰アーティストの植村恭子さん(42)は、桜島の火山灰を材料に風景や生き物などを描く「火山灰アート」を制作している。鹿児島県内の美術展などで多数の受賞歴があり、4月で活動開始から10年を迎えた。これまでの歩みや火山灰アートに込める思いを尋ねた。――火山灰を使って制作しようと思ったきっかけは。
「桜島ビジターセンターで働いていた2016年4月、熊本地震があった。同じく活火山の情報を扱う『南阿蘇ビジターセンター』と以前からつながりがあり、浄財を募ろうとこちらのビジターセンター内に募金箱を置いたが、何か物足りなかった。そこで目に付いたのが、掃除して玄関に集められていた火山灰だった。玄関先の地面に思いつきで『くまモン』などを描いたところ好評で、その後も頻繁に描くように。初めは今のようにアートにしようとは思っていなかった」
「地面に描いていずれは消える作品を4年ほど作り続けていたが、東京の知人に作品を依頼されたのをきっかけに、灰を接着剤で固めてみることに。コロナ禍の自粛期間に最適な接着の仕方を研究した。一方で『これがアートと呼べるのか』と自分でも疑問を持っていた20年、東京の上野の森美術館の公募展に出品したところ入選でき、本格的に制作に取り組むようになった」
「キャンバスなどのボードに木工用の接着剤を水で薄めたものを塗った後、上から火山灰を置き、乾く前に手で微調整していく。一つの作品に必要な火山灰は大さじ1杯ほど。直線を表現したい場合は一粒一粒を並べる細かい作業もある」
――火山灰を使う意義は。
「作品を通じ、他県の人に『鹿児島にはこんなに身近に灰があるんだ』と興味を持ってほしい。それが桜島や鹿児島に足を運ぶきっかけになるかもしれない。美術という切り口から鹿児島県民の『当たり前』を紹介したい」
――これからの目標は。
「より新しい表現に挑戦していきたい。最近では、和紙の上に火山灰と墨で描いた新作を出した。また、火山灰アートは誰でも楽しめるものなので、子どもや目の不自由な方たちにもワークショップなどで広めていけたらと思っている」
白いキャンバスに黒色の火山灰で風景や動物などを描く植村さんの作品は、灰の凹凸感やモノクロの色合いが力強く、近くでじっくり見たくなる作品だった。「火口に近い場所ほど大きい粒の灰が取れるんです」と宝物のように灰について語る姿が印象深かった。
桜島がある鹿児島県にとって、火山灰は生活と切り離せないものだ。人間の思い通りにならない自然も、植村さんのように愛着を持って活用することが、人と自然が共生する未来への第一歩だと強く感じた。(笹原文佳)
◆うえむら・きょうこ=鹿児島市出身。県内のガイドを行うボランティアと並行して、2011年からNPO法人で3年間、桜島ビジターセンターで5年間勤務した。20年から火山灰アーティストとしての活動を本格化させ、25年に上野の森美術館(東京)の「第38回日本の自然を描く展」で入賞するなど活躍する。将来はアイスランドやハワイなど活火山がある場所へ赴き、個展を開いたり現地の火山灰を集めたりしたいという。