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自然・火山 読売新聞オンライン 👁 1

閉校した中学校の体育館の扉を開くとスモーキーな香りと山積みのウイスキー樽…鹿児島県の山あい「熟成には最適」

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 人口減少で鹿児島県内各地で学校の統廃合が進む。地域活性化や産業創出の拠点として生まれ変わった、かつての学舎を訪ねた。

 「神楽の里」で知られる志布志市志布志町田之浦地区。ひっそりとした山あいに、12年前の春に閉校となった旧田之浦中の校舎や体育館が今も残る。静けさが漂う中、作業服を着た従業員がおもむろに体育館の扉を開けた瞬間、スモーキーな香りが押し寄せてきた。眼前に広がったのは、無数に山積みされたウイスキー樽(だる)だった。

 旧志布志町にあった3中学校を統廃合した際に閉校となった同中。閉校から3年後の2017年3月、市は校舎や体育館を活用する事業者を募った。23年10月、コロナ禍で売り上げが落ちた大崎町の老舗焼酎メーカー「天星酒造」は、需要が高まるウイスキー造りで業績を回復させようと市と賃貸契約を締結。ウイスキー樽を貯蔵する「田之浦エイジングセラー」として活用を始めた。

 「景観は崩さないでほしい」――。同社が賃貸契約を結ぶにあたり、地元住民から出た要望だった。ウイスキー樽を山積みするため、体育館の床は全面撤去したが、外観やステージ、バスケットボールのリングなどはそのまま。校舎の職員室や教室、廊下も机などの備品を撤去しただけで、当時の姿を残している。

 車で30分ほど離れた同社で蒸留したウイスキーを運び込んで熟成させており、今では計約1800本のウイスキー樽が出荷の時を静かに待つ“蔵”となった。

 「霜が降りるなど寒暖差が大きく、ウイスキーの熟成には最適な場所だ」。校舎の裏手には山、眼前には川が流れ、同社で営業部長代理を務める高屋総一郎さん(39)は、貯蔵環境の良さに満足げだ。閉校した校舎や体育館を活用した珍しさからか、全国各地から蔵の見学に訪れるウイスキーファンの多さにも驚かされるという。

 田之浦地区は伝統的な神楽が伝わる一方、人口減少や高齢化が著しい。長らく企業の進出はなく、目立った産業もないのが現状で、地元の期待も大きい。蔵の近くに住む女性(84)は「閉校後、子供たちの声が聞こえなくなって寂しかった。今ではにぎわいが出てきたようで安心する」とほほ笑む。

 体育館や校舎に保管されたウイスキーは、3年の時を経て来年から順次、出荷される見通し。蔵のツアー客の受け入れも想定し、校舎2階にある音楽室はセミナールームに、3年生の教室を試飲室に改修した。

 高屋さんは「ここで熟成させたウイスキーを通じて、『田之浦』の名を全国に響かせ、多くのファンが訪れるような地にしたい」と意欲的だ。(鶴結城)

 文部科学省によると、2004~23年度の20年間で、県内では262校が廃校となった。多くは跡地の活用が決まり、県教育委員会学校施設課によると、うち71校が未活用の状態(24年5月時点)という。

 今年4月1日には、鹿児島市の桜島地域の八つの小・中学校が統合し、同市初の9年制の義務教育学校「桜島学校」が開校した。

 市は廃校となる8校の跡地活用に向け、地域住民へのアンケート調査などを実施。民間からの活用案も募集し、今後は、それらを踏まえ、利活用業者の公募を進める。